草食恐竜と信長

 

 

長年行きたかったところに、一度に行くことができた。
それは福井恐竜博物館と一乗谷朝倉氏遺跡。


福井が恐竜王国だと聞いたのは大分前。あの北陸の地に恐竜がいたのか!ロマンを感じ、ぜひ行ってみたいと思っていた。だが、実際には福井の地を恐竜は歩いてない、と数年前に知った。かつて歩いていた場所が、大陸から引き剝がされて、今の福井の場所にとりあえず落ち着いた、そうだ。よくそんなことが分かると思うが、どうもそういうことらしい。それを知ってからテンションは落ちたが、いずれにしても恐竜のリアルな造形物を見てみたい、とずっと思っていて、ついに行けた。


恐竜博物館は思ったより、学術的でマニアックだった。
リアルで巨大なティラノザウルスを見て、おお!、と思う。20万年の歴史しかない人間が、そのはるか昔6500万年前に滅んだ恐竜と実際に対峙したことはありえないのだが、小学一年のときに見た映画「恐竜百万年」の恐竜と人のバトルにいたく興奮したことを思い出しながら、コロナ厳戒下でもあり、静かに興奮する。

いろんな角度から眺め、こういうのがのしのし歩いてたというイメージは存分に得られて、だいたい30分くらいで満足でき、あとの学術的資料は流して見て廻る。ただ展示のラスト近くにある、ほんのはじっこに人間の登場が示された壮大な地球歴史マップには惹きつけられた。なんと短い人間の歴史。そして今日という時代の最先端というあぶなっかしさ。


で、次は一乗谷だ。恐竜博物館から車で一時間ほどで到着できた。

戦国時代は幕末期と並んで興味深い激動期だ。今とはまるで違うスリリングな日常だったろう。だけれど、ブラタモリや数々の戦国時代番組で紹介されたこの集落にはなんとなくあったかい平和なイメージがあった。

こんな谷に挟まれた地をわざわざ開いて、えっちら集落をこしらえ、楽しくかつ用心深く生活していたであろう朝倉さん以下村人の人達を偲びながら夕刻の遺跡を歩く。
そして、この平和な村に攻め込んできたのが、アドレナリン満タンの織田信長。なにもこんな長閑なところまでつぶしに来なくてもいいと思うのだが、何が彼を駆り立てたか。


思えば、人のいや生物の歴史は戦いの連続だ。
恐竜の時代でも、草食恐竜は肉食に食われて難儀と思うが、草食恐竜だけが増えても、植物が食い荒らされて結局は生態系が崩れてしまう。肉食との両者が存在して自然界のバランスがうまくとれていたのだ。だから二億年も持続した。サステナブルだったのだ。
一方、人類はどうかというと、常に現状で満足せず他を侵略してまで求めてしまう。知能が働く分、繁栄と安定の長期計画などを目指すようになり、やられる前にやったるという戦略脳も発達した。富と力をたくわえ将来に備えたい、そのためには誰と組んで誰をやっつけて、といきつくところ争いになってしまう。それは戦国時代も今も少しも変わらない。


「一乗谷の人たちが草食恐竜だとしたら、織田一派は肉食恐竜だ」

そう考えながら、静かな遺跡跡を歩く。丘にのぼって眼下にも眺める。

ここには、犬も猫もいない。人がいないところには彼らもいないのだ。すべてが消え失せて500年ほどじっとしている集落の背景の山の向こうに日が落ちていく。

なんにしても、だんだん暗くなっていく彼誰時にこうした遺跡を散策する幸せがここにあることを思う。そのことに感謝して、高速道路を肉食車両に注意しながら運転して帰った。