知らん子に齢を聞いた

 

朝夕、近所の大学構内とその周辺をウォーキングしている。

ラフな大学で門はいつも開放されているので、構内にはいつでも自由に入ることが出来、通勤や買い物帰りの自転車の人や、犬の散歩のおばさん、など各々自由に通行している。また馬術部の馬がときどきパッカパッカと歩いていたりもする。
木々が多く鳥はさえずり、広々としていてたいへん気持ちいいいので、ここを歩くのを毎日楽しみにしている。ある朝、散歩コースの路上にセミが仰向けに転がっていて、夕方にはそれに蟻が群がり、翌日の朝にはもう影も形もなくなっていた。自然って潔いな、と思う。セミも人も蟻も生き物としては変わらない。なのに頭でっかちな人間だけが、なんやかんや苦労を作りだしながら生きている。

そして先日、夕方のこと。いつものようにグラウンド脇の門から入り、守衛室のところまで歩いていってUターンする。とその時、うしろから来た自転車三台が僕をするりと追い越していった。それは子供たち三人組で、小5、小2くらいの男の子、そして一番うしろからいくのは・・・え、うり坊?!過去、こんな小さい物体が補助輪もない自転車に乗っているのを見たことがない。
子どもはその小ささだけですでにかわいい。たまにお母さんに手を引かれた、歩き出して間がないよちよち歩きの子を見かけるが、その小ささがもういじらしくて可愛くて仕方がない。後ろから見ても前から見ても横から見てもかわいい。
しかし今回はそれくらい小さいのが自転車をこいでいるのだ!正確にはその自転車にはペダルがついておらず、足で地面を蹴りながら絶妙にバランスをとって進んでいるのだが、前をいく兄?たちにしっかりついていくだけのスピードがでており、その野生的な雰囲気に驚く。
いいもん見つけたと、この集団に少し足を速めてついていくと、角を曲がったところで、いい具合にうり坊が転んだ。ここぞと近寄って、自転車をおこしてやる。うり坊はラフなおかっぱ頭の女の子だった。派手に転んだのに泣きもせず、まるまると元気そうでちょっと泥んこで汚れてもいて、実際、山からおりてきたみたいに見える。
「いくつ?」と出来る限りのフレンドリーな声で女の子に問うも、きょとんとした顔のまま返事がない。こりゃあかんと思い、自転車にまたがったまま振り返ってこっちを見ていた一番年上の兄に向って、「この子、いくつなん?」と聞くもガン無視。マスク姿のおっさんにいきなり話かけられ、これはかかわらんほうがいい、一生口きくか、と思っているふう。微妙な空気にちょっとあせって「いやぁ、自転車乗るのうまいな~、いくつなんやろと思って」、と質問の趣旨説明をすると、二番目の兄が、すこし安心したのか「三歳、でも二歳から乗れてた」と答えてくれた。「二歳から!ほんと?すごいね~、頑張ってね」(何を頑張るねん)と僕はその場を去り、三人も別方向に去っていった。「三歳かぁ、赤ん坊に見えた」と思いながら少し歩き、ストレッチをしていたら、三人組はまた戻ってきてちょっと遠くから僕を見ていた。


さて大学を出て、遊歩道に入ると、時々出くわすおばあさんみたいなおじいさんが犬を連れている。この人、だんごみたいに髪を結っているのだが、それがマンガの「意地悪ばあさん」みたいなのだ。ガタイがいいからおじいさんときめつけているが、もしかしたらおばあさんかもしれない、と思いながら帰る。

さぁ、晩御飯だ。さっきのこどもたちも山に(家に)帰って、いまごろ夕飯だろうな、食べながら二番目の兄が親に「今日、こいつ自転車乗るのうまいってほめられてん」と話してるかも、と冷やっこに鰹節をふりかけながら思う。

そして終始僕を無視した一番上の兄は夏休みの宿題の作文に今日のことを書いたかもしれない。
作文のタイトルは「知らんおっさんにとしを聞かれた」。