10月の蚊

 

 「羽根音に気づいて、痒く起きた夜は~」

 

ユーミンの「12月の雨」みたいだが、とにかく蚊にかまれるのが嫌いだ。

お盆前に母と墓の掃除をしていたら、ヤブ蚊がすごかったので、タオルで半狂乱になって追い払っていると、その振り回すタオルが草をむしる母の顔を直撃し、いろんな意味で悲しい時間となった。

夜中、耳元にプィ~ンと蚊の羽の音が聞こえてくることほどうんざりするものはない。反射的に自分の耳を手でたたくがこれでしとめることはまずなく、理不尽な痛みのみが耳に残る。もう既にどこかしら噛まれて痒みが芽生えており、確実に安眠は妨げられた。人生における無駄な時間と思いつつ、電気をあかあかと灯して、蚊を探すことになる。するとあれだけ飛び回っていたものが、どこにもいない。一時避難がうまいのだ、奴らは実に。たまに天井にへばりついてるのを見つけたりすると、素直ね、と嬉しくなる。どうしても見つからないと、くそと思いつつ、蚊取り線香をつけることになる。ちなみに蚊取り線香は、アースより金鳥のほうがやさしい香りだと今夏初めて気がついた。若干高いだけある。

さて、墓前で母を泣かせてから、はや二ヶ月が経ち10月半ばになったが、まだ蚊がいる。
この時期の店閉まいセールのような蚊のやけくそぶりはすごい。
もう早いとこ栄養摂って、早いとこ子孫残さないと!という思い一点で特攻してくる。
この時期、フード付きのフリースで寝ている僕は、フードを被ればこっちのものと羽音が聞こえると同時にフードを被る。これで安心と眠っていると、いつのまにか、おでこが痒い。すなわち噛まれている。フードを被ったことで羽音が聞こえなくなっている中、敵は暗闇でむきだしのおでこをちゃっかり探し当てたのだ。ええい、と枕の上に敷いていたタオルでおでこと目と鼻を覆う。ほとんど顔は隠れたので今度こそ安心、としばし眠る。と、あごが痒くて目が覚める。口元のわずかな隙間から侵入し、あごにとまって吸血したのち、またそのわずかな隙間から脱出しよったのだ。

かような蚊の、あくなき執念というか「獲りに行く」姿勢はあっぱれとも言うべきか。

柿の種大にプックリふくらんだ顎先を掻きながら、どこかの弱小サッカークラブのコーチか、ジリ貧企業の営業部長が言いそうなセリフを暗闇でつぶやいてみる。


「10月の蚊を見習え!」