スーパーのレジ事件簿

 

 スーパーでの買い物が好きだ。近所にはスーパーがやたら多いので、安いのはここ、野菜が新鮮なのはここ、梅干が美味しいのはここ、すいているのはここ、と用途にあわせて使い分けている。レギュラーで買う白菜にほうれんそう、レタス、あじの開きにシャケの切り身、豚肉に納豆、キムチ、はちみつ梅、牛乳に野菜ジュースにポテトサラダ、こういったものを見てまわって選ぶのは楽しい。ここにスーパーのレジにまつわるいくつかの事件を記す。

■千とカードのおあずかり事件
Tストアにて。千円とその店のポイントカードを一緒に差し出すと、
「千とカードのおあずかり」とレジの人が清らかに言った。ジブリファンか、と思った。

■ちょうど事件
Oストアにて。僕はレジを打ってもらってるとき、いつも右手は見当分のお札を握り、左手は小銭入れの口を開けて持ち、身構えている。一陣の風のように サッと支払って、後続の客およびレジの人に、ああスムーズな人やわぁ、と喜んでもらうためだ。その段取りの良さと素早さでは自信がある。しかし、この日はなんと精算額は2000円ちょうどだった。「おっ」と小さい喜びを伴った驚きの声をあげるも、レジの人も後続の客もまったくの無表情。「おっ」だけがレジに取り残されたまま泳ぐように退散。

■幸せの黄色いハンカチ事件
高倉健が炭鉱町のスーパーで、レジを打つ倍賞千恵子に「奥さん病気なの?」と話しかけられ、「いえ、オレ、独りもんッス!」と嬉しそうに答えるや、スーパーを飛び出していくシーンがある。独りでレジで精算するとき、いつもこのシーンがうっすらと頭の中にある。ときどきすごく手際よくて、感じのいい笑顔の店員さんなんかがいて、こういう人はいい奥さんになるだろうな(実際主婦パートだから、もうなってるか)と思ったりする。今のところ、レジ袋や箸が必要か否か、くらいしか話しかけられていないが、いつか高倉健のように店を飛び出す日は来るだろうか。

 

■母のおでこから汗が噴出した事件
実家近所のK屋スーパーにて。精算してのち、食材をレジを出たところの台でレジ袋に入れていると、袋入り黄な粉が内側面にへばりついている空き買い物カゴを傍らに発見。誰かが持って帰り忘れたのだ。一緒にいた母にそれを告げると、母は即座に「もらっとこ」と言った。母は毎朝、黄な粉を牛乳に入れて飲んでいて、これをいつも愛用している。だから、天から (店から)の贈り物として母の言うとおりもらっておこうかと一瞬思った。が、この日はオール一割引きで、例えば2000円買ったら200円トクする日。 どこかのおじさんがせっかく買った黄な粉を取り忘れて、帰ってかみさんに黄な粉ない!と責められて、また行って確かめてと命令され、それで来てみるも無くてがっかりして、新しく買って、家に帰って、あった、とかみさんウソついたりするのも不憫だなぁ、せっかくの一割引の日なのになんにもならんなぁ、と、そういう一連の流れが15秒くらい頭をかけめぐり、結果、カウンターに忘れ物ですよ、と持って行った。よくあることなのか、「あ、どうも」と係員はそっけなく受け取った。家に帰って母がこの事件を振り返り、『「もらっとこ」と言った途端、でこに汗が噴き出たのが自分で分かった』と言った。


■録音事件
同じくK屋スーパー。おつりをもらうとき、「四千円とぅおー、三百ぅー、三円どぅえす」、との異常にネチこく素っ頓狂なレジの女性の言い回しを聞き、思わず噴出しそうになる。この人はどういうキャリアを経てこの独特な言いまわしを会得したのだろう。最初は普通にしゃべっていたはずだ。勤務する途中で何かあったのだろうか、トロロイモのようなこの粘りはなんなのだろう、そのしゃべり方だと仕事がラクなのだろうか。疑問解明の為にも録音して聞いてまた笑いたいと思い、後日ICレコーダーを持参して行ってみるが姿は見えず。

最近は、「安く買えてトクしたと店を出た途端、三叉路一時停止違反で切符をきられた事件」があった。(知らない間に奇妙な一時停止になっててた)ともあれ、スーパーは楽し、である。