読売新聞とエスタックイブに感謝!

 

嵐の夜、車の中で、ひとり一夜を過ごした。

心細かった僕を救ってくれたのは読売新聞とエスタックイブだった。

 

9月3日、河口湖ステラシアターでの演奏を終えて、20時前、ひとり車で帰途についた。もとより台風12号の接近で本番前日から大荒れだった天気。本番はなんとかもったが、本番終了後の夜からいよいよ本領を発揮しだした。「ワシをなめたらあかんぜよ」と喚きながら暴れまくる台風。激しい雨と風により、帰途コースが山中湖畔で通行止めとなっていた。路上で交通整理をする係員(警察官ではなく地元関係者か?)に迂回路を教えてもらい行ってみると、そこもすでに通行止めとなっていた。これが二度繰り返され、結局山中湖を二周。もう人に意見は聞くまいと、わがカーナビが示す抜け道コースをこころみる。だが段々とカーナビの指し示す路がはっきりしなくなり、そのうち宙に浮いて彷徨い出した。カーナビ、あきらかにパニックってる!気が付けばかなり幅員が狭い山道に迷いこんでいた。路には枝や葉っぱが散乱している。ライトを消せばぐるり漆黒の闇!さぁ、どうする?暗闇に弱い人の本能には逆らえず、やっとこターンして元の路にもどる。頼りは東富士五湖道路。これさえ開通すれば、御殿場から東名にのって我が家に辿りつけるのだ。というわけで、山中湖インターに戻り、入り口封鎖するオレンジ色のレインコート姿の係員に復旧見込みを聞く。「われわれも分からないんです」。怒涛の雨に打たれながら応える係員に、それ以上何が聞けよう。入り口近くに車を停めて復旧を待つも、風雨はますます強まり、これは今日は開かないなと判断。ホテルは満杯、時は22時、インター近くのコンビニ駐車場で夜を明かすことにする。

 

暗い車中で、今日はすこしもいいことがなかったと暗澹たる思いになる。演奏中に急にギターの音が爆音とともに出なくなったなぁ。せっかくの「冷たい雨」を文字通り冷たくしてしまった。そうして、現実の雨は車の屋根をバケツでもってぶっかけはたく。ンゴーッと遠くから襲ってくる暴風はときおり車体を揺さぶる。我が車はしかし、雨漏りもせず、心強い。学生時代に初めて家に来た中古のブルーバードが雨漏りしたのを思い出す。雨漏り車を平気で父親に売りつけたオッサンに腹が立つ。そうするとさっきのデタラメな迂回案内をした係員、さらには台風接近だというのに持ち時間を大幅に超えて演奏した某シンガー、などにも怒りの矛先が連鎖的に向き始め、怒りは何も生まない、と思い直して、被災者の苦労を思ったりする。それにしてもこれだけ強い雨が長く続いて、山中湖は氾濫しないのだろうか。行きに通りかかったとき既に、かなり水位が高く大荒れだったから、あれからの更なる降水を思えば氾濫があっても不思議ではない。朝、目がさめたら車がボートのように水面をさまよっているなんてことも・・・。

かなり、寒い。これは風邪をひくかも。そう思ったときに、今朝ホテル(前日入りだった)で「ご自由に持っていってください」と積まれていた読売新聞があるのを思い出す。ざっくり部屋で読んだが、なんとなくかばんに入れて持って出たのだ。これをばらして、かけぶとんにしてみる。これが、おお、あたたかい!さらに思い出したのは、出掛けにちょっとのどが痛いから念のため、と持って出た感冒薬「エスタックイブ」。初期の風邪はこれを飲んで寝れば、僕の場合、たいてい治るのだ。楽屋から持って出てきた水もあるし服用する。風邪薬はすなわち眠り薬、こうして読売新聞とエスタックイブのおかげで、23時には暴風雨をBGMに眠りにつくことできた。

 

そうして、何度か暴風雨音に目がさめつつも、気がつくと、あたりはうす明るくなっていた。午前5時。変わらずの暴風のなかをすっ飛ばしていくバイクをいきなり発見、わぁと思う。かけぶとんの読売新聞は湿気でふにゃふにゃになっている。

山中湖インターに行ってみると、依然として不通。そして、昨日の夜の係員がまだいた。徹夜だったのですね。ご苦労様。復旧見込みへの応えは相変わらずの「われわれにも分からないんです」だったが、今回は一点情報が。山梨を脱出するには、朝霧高原を通って富士インターにぬけるコースが使えるかも、とのこと。地図で確認すると、70キロくらい走ることになり、この暴風の中ではじっとしていたほうが得策と考えた。で、そのままインターの入り口近くを見渡せる場所に車を停める。不通といっても、自衛隊関係車両、それに地元民だろうか、民間人も人によっては通している。これはどういうことなんだろうと思いつつ、また眠る。二時間くらい眠ったろうか。係員が変わっている。遠め陽気そうに応えている元気者に。で、近づいていって、この人に復旧見込みを尋ねると、彼は楽しそうにこう答えた。「2,3日開けるなと言われてます!」。そう聞いて若干のけぞるも、これ以上説得力のある答えはない。そそくさと朝霧高原経由ルートにまわり、富士ICから東名にのって無事に16時に家にたどりついた。

 

9月3日夜-4日の出来事です。とにかく睡眠をよくとれたので運転も無事にいった。睡眠をとるって大事なことだと再認識。読売新聞、エスタックイブ、ありがとう!