三度目のウブド

 

バリ島のウブドに行ってきた。
これで三度目。

12年前、初めて行ったとき、通りの小さな店先でいいなと思う絵を見つけた。緑が美しい素朴な田園風景の絵。この絵が好きと言ったら、兄が描いた、とちょっとさみしそうに言った弟の絵も一枚買った。今も兄の絵を玄関に飾っている。


2年前、二度目に行ったら、絵を買ったその店はなくなっていた。絵はたくさんの店で売られてはいたが以前惹かれた素朴な絵柄はもう見られなかった。

中心部から少し離れた寺院でガムランの演奏を初めて聴く。客は4人。でもガムランオーケストラと踊り手は客の少なさなどまるで意に介さず、神への捧げものとして真摯に奏で、舞っていた。素晴らしい一体感と集中力、大胆さと繊細さに胸がぶるぶる震えた。客から少し離れて村の子供たちが熱心に見入っていた。ガムランとレゴンダンスが好きになった。


そして今回、三度目の訪問。そのガムランオーケストラ「ヤマサリ」は活動を停止していた。別のガムラングループの演奏を観たら、こちらは少し観客に媚びている気がした。踊り手の動きと表情に引き込まれる一瞬はあったが前回ステージに満ちていた真摯なものは感じられなかった。

今回は初めて自転車を借りて、ウブドとその周辺をまわった。田園に吹き渡る風がたいそう気持ちいい。自転車で走ると、観光目線から生活者目線に変わった気がした。普通に人の営みが自然の中にあった。でも、その長閑さは町の中心部に入ると一転、狭い道路が車、バイク、人でいっぱいになる。学校帰りの子供をのせた三人乗りバイクも中にいる。しかもバイクは一方通行を無視しているから混乱は際立つ。が、みな運動神経良く、するりするりと前進している。このカオスの中、自転車で一方通行を無視、車道の右側左側を構わず好きなように走った。前から車やバイクがやってくる。中にはいきなり鉢合わせってこともある。日本だったらコラァ!の声やクラクションに見舞われそうだが、そういうことは一切なかった。みな、こちらをうまくよけてくれる。犬や虫や風のように、ただ前からやって来たもの、そんなふうに見られている気がした。
ウブドでは怒って声を荒げたりすることが一番恥ずかしいことらしい。ウブドの人が好きになった。

 

行くたびにちょっとずつ変わっているウブド。好きだなと思ったものはもう無くなってたりする。でも、三度とも変わらず素晴らしかったのは、緩急のある雨とそれに嬉しそうに打たれる緑。そして安くて美味しいマルキッサ(パッションフルーツ)。

ウブドにはまた行くと思う。そして自転車を借りて、走るとこから始めたい。
次は、どんな「好き」に出会えるだろうか。