第9地区 (09年アメリカ/ニュージーランド)

   巨大な宇宙船が二十年もビル群の頭上に停泊したまま、というきわめてシュールな設定も見ているとだんだん現実のものに見えてくる。二十年の間には様々な天変地異があったであろうが、宇宙船はびくともしないのだ。それにしても直下の住民はさぞかし日当たりが悪いことだろう。

 

 南ア、ヨハネスブルグの第9地区という名のエリアに閉じ込められ、わさわさうごめくエイリアン。でも地球人だって、わさわさぶりでは負けていない。争ったり、ええかっこしたり、パーティーで無為に盛り上がったり。ネコ缶を食い漁るエイリアンと同類に見えてくる。でてくるキャラがすべて病的なのだが、唯一、親子エイリアンだけが、地道な努力を続けていた。地球脱出のための準備を進めていたのだ。

 長い歳月をかけてこのエイリアン親子が醸造した燃料でもって、地中から指令船がぬっと姿を現すシーンが好き。ここは見ていてわぁ!と満面笑みになった。さあ、勢いよく母船に戻り、めでたく故郷へ帰るのか!と思いきや、発進してすぐ、あっけなく指令船は撃墜され地上に落下してしまう。世の中、そうそううまくはいかないもの。カタルシスをいたずらに求めない展開がよい。

 三年経ったら、あの律儀なエイリアンはきっと戻ってきて主人公を救ってくれるだろう。エイリアン、嘘つかない。でも、その三年後、残留エイリアンが移動収容された第10区がはたしてどうなっているのか。続編が見たいような、見たくないような。