マタンゴ (63年 日本)

 男5人と女2人が、ヨットクルーズに出て嵐に見舞われ、南海の孤島に漂着、結局は禁断のキノコを食べてキノコ人間になっていく様を描いた作品。久々にじっくり観たが、以前見たときは怪奇キノコ人間に目がいったが、今回は登場人物の人間模様に心がいった。

登場人物のキャラを一言でいうと、
男1 金持ちどら息子(ヨットのスポンサー)
男2 芸術家きどり
男3 粗野性欲強し
男4 理性的
男5 道徳的

女1 色気で世渡り
女2 古風控えめ

男1と女1がカップルなのだが、実は女1は男2とも通じている。
男5と女2がカップルなのだが、男1は女2を密かに狙っている。
というような、図式です。

 ここで注目するのは男4、作田という人物。小泉博が演じているが、インディ・ジョーンズによく似てるなと観ていて終始思った。この人はスキッパーというヨットの舵取り役なのだが、「インディ、船に乗る」という趣き。常に理性的で前向きな人なのだが、結局は食糧をありったけかっさらって、一人孤島からの脱出をはかるという意外な行動にでる。他の連中に失望しての暴挙か。でもこの人には共感できた。

 もうひとりの注目は男3、佐原健二が演じている。(佐原氏はこの役を演じるにあたり健康な犬歯を抜いて、粗野なイメージを作ったという。そこまでするか)生物としての本能、生きようという意識が素直に強い。海亀の卵を砂浜で密かにほじくり集め、その一部はその場でちゅうちゅう吸い、一部は森に保存食糧として隠し、一部は男1に売りつけ現金化する、というあっぱれな行動を展開する。そして、あっけなく銃殺されるが、ひっくり返った骸のかたわらにはお札が散乱。それもかなりの数。ということはかなり海亀の卵が売れたのだろう。この人にも共感できた。

 最後に生き残ったのは男5。この男はただひとり、キノコを食べる誘惑をふりきり、命からがら日本に帰り着くも、精神に異常をきたし隔離されている。そしてああ、この男にもキノコ人間化の兆候が見られ・・・というところで映画は終わる。ずっと以前にこの映画を観たときはこの男もキノコを口にしてしまったんだなと思った。でも、今回冷静に観てみてこの男はキノコを食べてはいないと思う。なぜなら食べたら、かなり短時間で全身へのキノコ化が進むから。島を脱出してかなりの時間が経過しているのに男はそれほどキノコ化してはいないから、食べてはいないのだ。ただ、さんざんキノコ人間に抱きつかれたりしたので、空気中の胞子吸入により、キノコ化がじわじわ始まったのだろう。恐るべしはキノコの生きようとする力。はるかに人間のそれを凌駕してます。