ナタリーの朝

ヘンリー・マンシーニBESTⅡ 収録

 

小6のとき、近所に巨大プールがオープンした。
友人たちと学校帰りに意気投合、早速行ってみようということになったが、そのうちの一人の母親が「子供だけで行ってはいけません!」と待ったをかけた。まぁ、至極正論なので、ガキ達のプール行き計画は簡単に却下され、結局その日は行けないことになった。で、後日、その待ったをかけた母親が付き添ってくれて(今思うと、責任感の強いいい人やったんや!)今度は晴れてプールに入場することができた。
ところが!その日は、まだ梅雨があけるかあけないかの時期であいにくの雨だった。ばかでかいプールに人はまばらで、プールに入っても出ても寒い状態。鳥肌がたち、唇は紫になってくる。
僕はプールサイドで海パン姿で体育座りをしながら、プール水面に沸き立つ無数の雨粒の輪、その輪にまみれながら、無理無理にはしゃぐ級友たちを眺めながら思った。

「少しも楽しくない・・・」。
「アンニュイ」も「盛り下がる」もまだ言葉として知らない小6時の僕の心は、まさしくアンニュイに盛り下がっていた。そして、そのときに頭の中でぐるぐるエンドレスで流れていたのが、この「ナタリーの朝」。

当時、気まぐれで父親が買ってきたのであろう映画音楽が無秩序に収められたレコード。その中にこの曲はひっそり入っていた。霧がかかったような風景描写のストリングスの導入部からピアノのもの悲しいメロディがアンニュイな気分にさせ、転調した大サビからは一転メジャーコードを背景に男女コーラスが入ってきて、かなりの高揚感と幸せ感を演出、最後はまた霧の中に戻っていくという構成。

プールサイドでなぜこの曲が頭の中に去来し、エンドレスで流れたか。
それは真新しい曲線プールの情景がなにやら異国風に思え、そのプールサイド、カラフルなパラソルに雨という状況があるお洒落さを伴って新鮮に思えた。そして、このときの小6なりの非日常かつアンニュイな気分に、一番マッチしたのが、当時聞いてた中で一番異国的だったこの曲だった、ということだと思う。

だいたいが、マンシーニの作る映画音楽は、作品中の喜怒哀楽を一曲の中に盛り込もうとするせいなのか、メジャーとマイナーが交錯しテンションコードも実に豊富、いつどうなるか知れない人生そのままと行った感じ。ずっとメジャーで気持ちよく来てるのに、エンディングのコードだけ、将来の不幸を予測するかのようにマイナーの不吉なコードだったりも平気でやります。

この曲は、なかなかCDに収められてなくて、やっと見つけたときは嬉しかった。で、この曲に続く「いつも2人で」がこれまた鳥肌ものにイイ。平和なメジャーコード進行のイントロから、意表をつくコードをまとってメロディが入ってきたかと思うと、三小節目に静かに入ってくるストリングス。これにはほんとにぞくっときます。シンプルだけど、たまらなくキュートなメロディ展開は最高!しかし、そこはやはりマンシーニ、この曲の最後もえげつなく不吉コードで締めくくられるのであります。