DVD「Vivante」のこと

 

2010年5月、山本潤子さんと拙宅音楽部屋で打ち合わせをしたときのこと。ひと段落して、近所にいいカフェがあるから一緒に行ってみませんかと誘ってみた。「遠い?」、「そんなには」ってことで、行ってみようということになった。緑道を15分ほど歩いて行く。途中にちょっと大きめの池があるのだが、そのほとりにカメラの砲列ができていた。それまでぼんやり歩いていた潤子さんは「鳥だ!」とつぶやくと、弾かれたようにカメラをかまえたおじさんに走り寄って話しかける。「何撮ってるんですか?」と潤子さん、「カワセミ。」とカメラおじさん。こと野鳥となると、潤子さんはやおらいきいきかつ積極的になるから不思議。

カフェシエスタに到着。店に入るとGリトリバーの老犬ジュリーが出迎えてくれた。ヴァイオリンとアコーディオンのデュオを組んでいるオーナーご夫妻は、旅先のスペインの街角で出会ったそう。小説のような出会いだこと。おふたりのセンスが存分に生かされた昼でもちょっと暗めの落ち着いたウッディな空間。ジュリーはお約束の?ご来店感謝愛想ふりまきのあとは、気ままに床にねそべって、ときどき眠そうにこちらを見ている。「こんなところで、映像作品がとれたらいいね」、と潤子さん。カフェでのライブをDVDに収録するアイデアは、この日シエスタに出会ってふくらみ、実現へと向かっていった。

7月には、映像、音響スタッフと葱の花スタッフをまじえた下見。初夏の若々しくも鮮烈な日差しは気持の下、近くの公園にも出向き、野外でも何曲かやりたいね、ということになった。編成はカフェということもあり、大所帯ではなくシンプルにアコースティックにというのが基本コンセプト。ウッドベースとパーカッションを入れる方向も考えれられたが、結局、潤子さん、僕のギター二本に新川さんのエレピということで落ち着いた。ただ野外では恰幅のよい新川さんと言えどエレピは重すぎるので、アコーディオンを抱えることに。
曲は、新曲5曲にCD「スモールサークル」「音楽に恋してる」から各二曲ずつ、そしてステージでは演奏していた「ヒトイロ」「Don Don Don」の11曲。
CD「音楽に恋してる」と同様、新川さんのナユタスタジオで数回のリハーサルを行った。潤子さんは「これがおそらく最後の映像作品になるから」と衣装も数パターン自ら選ぶ気合の入りようでした。

そして9月15日~16日のカフェでの撮影当日。一曲を1~2テイクでさくさく撮っていく。リハのかいあって収録は順調に進んだ。曲の最中合間を問わず、ジュリーが足元を気ままに練り歩く中、4台のハンディカメラがカフェ内の様々なアングルから演奏者を収めていく。店の一角に陣取る音響チームはつねに冷静に音を拾っていく。珈琲の香りとほのかなタバコのけむりが心地よく馴染む空間。老犬ジュリーは眠ったか?いや、起きている。頭をひとなで。こうして撮影はまったり進行していった。


野外撮影は猛暑の終わりを待って9月29日。雨が降ったらどうしようとスタッフ一同気をもんだが、さすがに晴れ女の潤子さん、よい天気となりました。撮影中に下校中の小学生の一群が通りかかる。「誰?」「松田聖子?」などと囁きあってます。ロハス感溢れる潤子さんが公園で歌ったとき、さわやかな風が吹いていました。


タイトル、「Vivante」は仏蘭西語で「いきいきと」とか「生活」の意。

リビングでDVDを眺めながらにして、カフェでの一日を楽しんでもらえる仕掛けになってます。注目してほしいのは、オーバーダビング一切なしの潔い歌と演奏、そして潤子さんの朝~昼~夜の一日を通した五回変化っぷり。

というわけでテレビの喧騒に飽きた方、ぜひぜひ観てみてくださいませ。

初めてシエスタを訪問したとき
初めてシエスタを訪問したとき
絶妙な位置に居座るジュリー(新川さん撮影)
絶妙な位置に居座るジュリー(新川さん撮影)

と、ここまで書いて、ジュリーが6月7日に亡くなったことを聞きました。13歳11ヶ月。合掌。