箪笥(03年韓国)

 夢落ちの亜流で妄想落ちというジャンルがある。主人公はすでに死んでたり意識を失っていたりして、結局、映画はその主人公の頭の中で繰り広げられる支離滅裂な妄想ストーリーでもって展開する。この種の映画のたちの悪いのは、主人公の妄想なのだから主人公の視点であるべきで、そこに主人公自身の姿が出てきてはならないのに、映像ではがんがん主人公が登場し てくるもんだから、しごく客観的なものになってしまい、観ているほうは妄想と見抜けないまま話がすすめられていくという点だ。そこに本当の現実のシーンも混ざってきて、それらが時系列無視の場合も多いから、観終わった後で、あのシーンは妄想で、このシーンは現実で、こっちのシーンが実は先で、じゃあこのシーンはどう説明するのか?、なんて煮え切らないままもう一回観てやっとうっすら納得、という徒労感が残る厄介な映画群である。

 

 この映画もまさにその種の映画で、その難解さはトップックラスながら、主人公の長女、継母、ヌーボーとした父親ら、俳優たちの魅力と、舞台となる洋館がまとっている洒落てはいるがじとっと湿った(湖畔べりという立地でもある)不気味さに引っ張られてぐいぐい作品の中に入っていける。ホラーという部分では、リング的なものがちょこっと出てくるだけで新味はないのだが、とにかくどんでん返しが見事で、その謎解きを自分なりに解釈できる隙間と余韻があることも、その面白さを高めている。

 

 さらに、この映画がいいのは、観ていて幸せになるくらい笑えるシーンがあること。そのシーンというのはこうだ。継母が彼女自身の弟夫婦を洋館に呼んで夕食をともにする。継母は食事中に弟の昔話を持ち出し、ひとり笑い盛り上がってその話をしていくのだが、継母の前に座る弟夫婦と横にいる亭主(主人公の父親)は、ぴくりとも笑わない。それもそのはず、あえてここでネタバレはしないが、実はこれ、かなり怖い状態なのだ。なので継母を除く三人は、いっさい笑わず、箸をとめて、ただ凍った表情で一方的に話し続ける継母を見守るという設定だ。

 話の内容は、雨が降るとおかしくなって服を脱ぐ男が近所にいたよね、というものだが、この継母のもうおかしくて仕方ないという話し方が、ある意味自然すぎて、映画の流れを飛び出し、場を女子会にしてしまった。僕もつられて映画の外に出てしまい、そのハイテンションな話し方と表情、特に「おかしくなる」と言ったときの仕草に引き込まれて笑ってしまった。が、しかしここは、どホラー映画の中。弟夫婦は不審げに表情を引き攣らせている。よく笑わないで演技できるなぁ、という思いがさらに可笑しさを煽る。と、横の亭主が映ると、彼はワイングラスを一定の角度に保ったまま、悲しげに固まった顔でそこにいた。何度かのテイクでは笑ってしまってNGがでたけど、今回は頑張ってる!しかも、その全ての感情を失ってしまったような顔が高校のときの同級生Kに似ていて声を出して笑った。

 

 まこと、笑ってはいけない場面で笑いをこらえている人ほど、こちらを笑いに誘ってくれるものはない。これに共感した方は、YOUTUBEで「大根おろしの彼女募集」というのを観て(聞いて)みてほしい。どんな気分の、いついかなるときでも、観れば笑えるありがたいコンテンツだ。