砂の器 (74年 日本)

 

 緒形拳が亡くなった。ガンということを一切表に出さずに、最後のときまで仕事に打ち込んだという。潔い人だな、と思う。急にまた観たくなってDVDで観てみた。

 全編を通して、刑事役の丹波哲郎の怪演が光る。何か意外なことをつきとめたときの「えっ?!」という素っ頓狂な表情がいい。そして相方の若い刑事森田健 作もこれまた暑苦しく(ほとんどいつも汗をかいている)いい。東北の田舎で、「ではその男はここにずっと立っていたんですねぃ?」と森田が村人に尋ねる シーンが映画冒頭にあるが、この「ねぃ?」の語尾がむずがゆく心に絡まってくる。このふたりの刑事が、捜査の帰りの国鉄食堂車で駅弁とビールで談笑する シーンもいい。駅弁はおいしそうだし、ふたりは信頼し会っている上司部下だなと思えて気持ちがいい。

 でもって、もっとも好きなシーンがある。伊勢の映画館のシーンだ。被害者となった緒方拳は、巡査の仕事を勤め上げ、定年後にお伊勢参りをするのだが、そ こからなぜか旅の予定にはなかった東京行きを決める。その謎をめぐるシーン。丹波は緒方が、映画館に二日続けて通ったことに疑問を抱き、その映画館で聞き 込みに入るのだが、東京行きとなる確固たる理由をつかめぬまま帰ろうとしたとき、ロビーにかかっていた額入り写真に着目する。それには過去一度養子にしよ うかとまで思った少年の成長した姿があったのだ。点が線になり、そして事件は一転解決に向かうのだ。

 この一連のシーンがとても好きだ。ひまつぶしで行った映画館の壁にかかっていた写真をたまたま見つけてしまったことで、結局は殺されることになってしま う運命。人生行路は偶然か必然か、そのあたりを考えさせられるので好きなのだ。加えて、その映画館は小学校の修学旅行で宿泊したあたりに立地しているの で、雰囲気は懐かしさとともにぼんやりイメージできるのも好きなシーンである一因だと思う。

 また、ここでは疑問だらけの丹下が映画館のマネージャーである渥美清とからむのだが、昔に映画館で見たとき、渥美が画面に登場しただけで、館内にどよめ きがおこったのを思い出した。映画しか出ない俳優というものが昔は存在していて、そういう俳優はスクリーンに登場しただけで、一種の濃密な雰囲気を醸し出 しつつ実にうまくスクリーンにおさまっていた。
 
 この映画はキャスティングが素晴らしい。情婦役の島田陽子、年老いた犯人の実父役加藤嘉、犯人のフィアンセ役山口果林、その父役佐部利信などなど、どれもこれもぴったりだと思う。新日本紀行的に日本の原風景が展開され基本的にうら悲しい旅行感覚で観れるのもいい。

 それにしてもこの映画の一番のヒーローは誰か。丹下の口調を借りればこうだ。
 「それは私、丹下刑事ではなくて、はたまた森田刑事でもなくて、緒方の伊勢滞在中の行動、すなわち映画館に二日続けて通っていたことを知り、かつ覚えていた旅館の女中、春川ますみにほかならない。彼女がいなければ、本件は迷宮入りしてたに相違ない」(08/10/14)